Three Lines House
住宅 / 新築
2026 – , Shizuoka
静岡県に住まう20代の夫妻と2人のお子様のための平屋の住まいである。 敷地は、交通量の多い市道から引き込まれた細い路地の先に位置し、東西に細長く延びる形状であった。この土地に、屋内ガレージ、開放的なリビング、そして家族や友人と共にバーベキューを楽しむことのできる屋外スペースが求められた。
土地が細長い形状であることに加え、敷地北側路地からの法的なセットバックの影響により、建物の間口が十分に確保できない。そこで我々は、敷地に対して並行に「3本の境界線(壁)」をレイヤー状に配置する手法を採った。 この操作は、単に室内の気積を確保するだけではなく、内と外、そして隣地へと視線や意識を連続させることで、敷地境界を超えた環境そのものをひとつの「広さ」として享受できる、伸びやかな生活の場を創出することを目指したものである。
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主要用途 : 個人住宅 敷地面積 : 222.32㎡
建築面積 : 113.28㎡ 延べ面積 : 113.04㎡
構造 : 木造 階数 : 地上1階
総工費 : 35,000,000円















資本主義的な「床」への抵抗
現代において、住宅を設計することは、常に「坪単価」という資本主義的な数字との戦いである。建築資材の高騰という世界情勢に翻弄される一方で、地方の土地代は停滞したままという矛盾。この歪みが、豊かな敷地を持ちながらも、そこには「資源」として計算された最小限の床(在庫)しか持たない、貧しい建築を量産させている。我々は、この ―すべてを計算可能な資源としてのみ捉える枠組み― から、いかにして建築を救い出せるだろうか。
3本の線と「塗り残された」宇宙
静岡県に位置するこの東西に細長い敷地において、我々は間口の制約を逆手に取り、長手方向に沿って「3本の境界線」をレイヤー状に配置した。この概念的な「線」を、建築的な厚みを持つ「壁」へと置換し、それらを前後にズラして配置する。この操作によって生まれるのは、単なる室内の気積ではない。壁と壁が重なる部分に「機能」を、重ならない部分に「余白」を配置することで、生活の場を敷地全体へと拡張させている。日本画家・千住博氏の「フラットウォーター」における「塗り残し」の思想にも通じるように、描かれた部分(ボリューム)にのみ価値を置くのではなく、塗り残された部分(外部・余白)を、鏡のような水面、あるいは宇宙の象徴として読み替えること。建築面積という「描かれた部分」が小さくとも、その外側に広がる環境を、壁というフレームを介して生活の一部へと組み込む。そうすることで、資本主義的な床面積の概念を超えた、圧倒的な「広さ」の創出を試みた。
「報酬」から「実感」の建築へ
クライアントから求められたのは、屋内ガレージ、開放的なリビング、そして友人と集う屋外スペースである。これらを単に効率的な動線で繋ぐのではなく、3本の壁が作り出す「奥行きの変化」の中に埋没させる。壁を背にして次の壁を見やり、さらにその先の敷地外の環境へと視線を連続させる。ここでは、空間の豊かさは「何㎡あるか(報酬)」という外部的な数値ではなく、「どのように光が回り、視線が抜けていくか(実感)」という身体的な実存へと回帰する。「Three Lines House」は、物価動向や効率性に支配された現代の住宅像に対する、一つの回答である。床面積という限定的な「在庫」の管理から脱却し、建築のネガティブスペースを主題化すること。それによって、たとえ小さな建築であっても、宇宙のような奥行きを抱えることは可能なのである。